物件の付加価値を
向上させる
スマートホームサービスを「自社ブランドで提供したい」と考えたとき、選択肢になるのがOEM(他社が開発したものを自社ブランドとして提供する手法)です。ゼロからアプリやプラットフォームを開発するのに比べ、コストと期間を大きく抑えながら、自社名義のスマートホームサービスを立ち上げられます。
本記事では、スマートホーム分野におけるOEMの考え方と提供パターン、メリット・注意点、実際にOEMやプラットフォーム提供に対応しているサービス例、導入までの流れとパートナー選定のチェックポイントまで、法人担当者が押さえておきたい観点を整理して解説します。
OEMとは「Original Equipment Manufacturing」の略で、他社が製造・開発したものを自社ブランドとして販売するビジネス手法を指します。もともとは製造業の用語ですが、近年はアプリやクラウドサービスなど、ソフトウェア領域でも同じ考え方が使われています。
混同されやすい用語との違いを整理すると、次のようになります。
| 用語 | 意味・特徴 |
|---|---|
| OEM | 他社が製造・開発したものを、自社ブランドとして提供する手法。委託側が仕様の設計や技術指導に関与するケースを指すことが多い |
| ODM | 受託側が企画・設計から製造まで主体的に担う形態。委託側は仕様検討の負担が小さい反面、関与できる範囲は限られる |
| PB (プライベートブランド) |
OEM・ODMと同様の手法を、委託する側(ブランドを冠する側)の視点で呼ぶ言葉 |
| ホワイトラベル | ブランド名の入っていない完成品・完成サービスを調達し、自社名義を付けて提供する形態。SaaSやクラウドサービスで多く使われる |
実務上、スマートホーム分野ではこれらの言葉が厳密に区別されずに使われているのが実情です。問い合わせや商談の際は「どこまで自社仕様に変えられるのか」「開発はどちらが担うのか」を言葉の定義ではなく具体的な提供範囲で確認することが大切です。
スマートホームは、センサーやスマートロックなどのIoT機器と、それらを制御・管理するアプリやプラットフォーム(サービス側)の組み合わせで成り立っています。そのためOEMを検討する際も、「機器のOEM」と「サービスのOEM」を分けて考える必要があります。
スマートホームの基本的な構成については、以下の記事もあわせてご覧ください。
自社ブランドのスマートホームサービスを実現する方法は、大きく3つのパターンに分かれます。目的によって選ぶべき形が変わるため、まずは自社がどれに当てはまるかを整理しましょう。
スマートリモコン・センサー・カメラ・スマートロックなどの機器を製造委託し、自社ブランド名を冠したデバイスとして提供するパターンです。住宅設備メーカーや家電メーカー、通信事業者などが、既存の販売チャネルに乗せる商材として採用するケースがあります。
ただし機器単体では「スマートホームサービス」にはなりません。操作アプリやクラウド側の仕組みをどう用意するかを、あわせて設計する必要があります。
すでに稼働しているスマートホームプラットフォームを土台に、自社ブランドのアプリ・サービスとして提供するパターンです。アプリ名やロゴ、デザイン、機能構成を自社仕様に寄せられるケースがあり、「自社名義のスマートホームサービス」を最短距離で立ち上げたい場合に向いています。
分譲・賃貸物件に標準装備として組み込みたいデベロッパーや賃貸管理会社、ハウスメーカーなどが検討しやすい形です。提供側の呼び方は各社で異なり、「OEM提供」のほかに「スマートホームエンジンの提供」「プラットフォーム提供」と表現されることもあります。
ゼロから自社ブランドサービスを立ち上げるのではなく、すでに自社が持っているアプリやシステムに、スマートホームの機能だけを追加するパターンです。
たとえば既存の入居者向けアプリにスマート家電の操作機能を追加する、在宅介護向けシステムにカメラ機能を組み込む、ホテルのチェックインシステムとスマートロックを連携させる、といった活用が考えられます。既存サービスの資産を活かしながら、付加価値だけを足せるのが利点です。
スマートホームのプラットフォームは、機器との通信、クラウド基盤、アプリ、セキュリティ、保守運用まで含む大がかりな仕組みです。自社開発するには相応の投資と時間、専門人材が必要になりますが、OEMであればすでに動いている仕組みを土台にできるため、立ち上げまでの負担を大幅に抑えられます。
入居者や利用者が日常的に触れるアプリに自社ブランドを冠せることは、物件シリーズとしての世界観づくりやブランド認知につながります。複数物件・複数エリアに同じ名前のサービスを展開したい場合や、自社の既存サービスとデザインや導線を揃えたい場合に効果を発揮します。
なお、サービス提供元のブランドのまま導入する形でも、入居者向けの説明資料やモデルルームでの訴求、サポート窓口の整備といった支援を提供元から受けられるケースがあります。ブランドを自社名義にすること自体が目的でなければ、既存サービスをそのまま導入しても物件の訴求力は十分に確保できます。
スマートホームサービスは、月額利用料などの継続的な収益モデルと相性がよい商材です。物件の販売・賃貸で得る一時的な収益に加えて、サービス提供による継続収益を組み立てられる点は、事業ポートフォリオの面でも意味があります。
スマートホームは、鍵やカメラなど止まると生活に直結する機能を扱います。すでに多くの物件・世帯で稼働している基盤を活用できることは、品質・安定性の面で大きな安心材料になります。機器のアップデートや障害対応といった運用面のノウハウも含めて調達できる点も利点です。
「自社ブランド化できる」といっても、変更できるのはロゴ・アプリ名・デザインの一部にとどまり、画面設計や機能仕様までは自由に変えられないケースも少なくありません。どこまで変更可能か、追加開発は可能か、その場合の費用と期間はどうなるかを、早い段階で確認しておく必要があります。
サービスの中身は委託先が開発・運用しているため、障害発生時の復旧やアップデートの方針を自社でコントロールしにくい点はリスクです。障害時の連絡フローや復旧目標、サポートの一次対応をどちらが担うのかを、契約段階で明確にしておきましょう。
あわせて、機器とアプリを自社で開発している提供元か、外部から調達した製品を組み合わせている提供元かという違いも確認しておきたいポイントです。自社開発を軸にしている提供元であれば、機能追加や不具合対応を自社内で完結できるため、改修のスピードや相談できる範囲が広くなる傾向があります。
自社ブランド名を表示して機器やサービスを提供する場合、製造物責任法(PL法)上の責任を問われる可能性があるほか、利用者から見た問い合わせ窓口も自社になります。スマートホームは法規制が関わる領域でもあるため、次のような点は必ず確認が必要です。
※実際の適用範囲は製品・サービスの仕様によって異なります。具体的な判断は、必ず専門家や関係当局にご確認ください。
開発を外部に委ねる形になるため、自社に技術力や運用ノウハウが残りにくいという側面もあります。将来的に自社開発へ切り替える構想があるなら、データの取り出しやシステム移行が可能かどうかも、あらかじめ確認しておくべきポイントです。
ここでは、自社ブランド化や機能の組み込みに対応している(またはその窓口を設けている)スマートホームサービスの例を紹介します。
※提供条件や対応範囲は変更される場合があります。検討時は必ず各社の最新情報・公式窓口でご確認ください。
リンクジャパンの「eLife」は、住宅設備・家電・生活サービスを統合アプリ「HomeLink」で一元管理するプラットフォーム型のスマートホームサービスです。機器とアプリの双方を自社開発している点が特徴で、家電・スマートロック・照明・インターホン・HEMSに加え、太陽光発電やEV充電、防犯カメラ、高齢者見守り、オンライン診療、家事代行といった生活サービスまで幅広く連携します。
他社商材へ基盤を提供した実績としては、アイリスオーヤマのルームエアコン「airwill」にHomeLinkが操作アプリとして採用されています(2023年8月発表)。エアコン本体がスマートリモコンや他のアプリを介さずHomeLinkに直接対応した初めてのケースで、機器メーカーの製品にプラットフォーム側が組み込まれる形をとっています。
自社ブランドでの展開を検討する事業者にとって参考になるのは、サポートの体制です。導入前の企画立案や仕様のすり合わせから、入居者向けのPR支援・IoT勉強会といった販売促進のフェーズまで一貫して伴走する体制を打ち出しており、入居者からの問い合わせには国内の自社スタッフが電話・メール・チャットで一次対応します。OEMでは「サポートの一次対応を誰が担うか」が運用負荷を大きく左右するため、ここを任せられるかどうかは重要な判断材料になります。
また、独自の特許技術「QR-Link」により入居者はQRコードの読み取りだけで初期設定を完了できる設計で、現場での設定作業や入居者への案内にかかる負荷を抑えられる点も、自社名義でサービスを配る立場から見れば見逃せない要素です。アプリを継続的にアップデートして機能を追加・改善する「経年進化」の考え方も掲げており、長期運用を前提とする物件では確認しておきたい観点といえます。創業10年・累計55万台の実績を公表しています。
ソニーのスマートホームサービス「MANOMA」を提供するライフエレメンツは、公式サイトでOEM提供を明示しています。同社は「MANOMAを通じて培ってきたプラットフォームシステム開発・運用ノウハウを活用し、スマートホームサービス開発(OEM)や機能導入をサポートします」としており、機器や機能のOEM提供に加え、専用のスマートフォンアプリの開発・提供にも言及しています。
2018年からのサービス提供実績があり、機器の累計出荷台数は30万台以上(2019年4月〜2023年3月)。新規サービスの立ち上げだけでなく、既存アプリへの機能追加といった使い方も想定されています。
アクセルラボは、「SpaceCore」のスマートホーム制御システムや機器を他社の自社ブランドアプリから利用できるようにする「スマートホームエンジン」の提供を行っています。不動産会社・ハウスメーカーのほか、インターネット回線や電力などオリジナルブランドのアプリを保有する事業者に対して提案しており、採用企業は「自社のアプリで安価かつ短期間でスマートホームサービスを開始することができます」としています。
実際の採用例として、And Do ホールディングス(ハウスドゥ)が開発の迅速化とコスト低減を目的にOEMでのスマートホームシステム構築を検討し、「SpaceCore」のエンジンを採用。自社ブランド商品「スマートDOホーム」として、全国のハウスドゥ直営店・FC加盟店で販売される新築物件に展開しています(2022年3月発表)。採用理由には、連携できるスマートホーム機器・住宅設備の数の豊富さと、自社アプリへの導入の簡便さが挙げられています。
賃貸管理事業者向けの「SpaceCorePro」、分譲住宅メーカー向けの「SpaceCoreHome」といった用途別プロダクトも展開しており、自社の事業形態に近い形から相談を始めやすいサービスです。
三菱地所の総合スマートホームサービス「HOMETACT」は、2026年4月に事業が分社化され、株式会社HOMETACTとして独立しました。連携メーカー30社・接続機器200種類以上のオープンプラットフォーム戦略を掲げ、全国44都道府県・200社への展開実績を公表しています。
OEMという表現ではなく「パートナー企業との共創」を打ち出しており、デベロッパーや賃貸管理会社など幅広い事業者への提供を進めています。
実際にOEMで自社ブランドのスマートホームサービスを立ち上げる場合、おおよそ次のような流れで進みます。
導入にかかる期間の考え方は、通常のスマートホームサービス導入と共通する部分も多くあります。あわせて以下の記事も参考にしてみてください。
スマートホームサービス導入にかかる期間は?導入の流れを徹底解説
自社が採用したい住宅設備・家電・鍵・カメラに対応しているかは最重要の確認事項です。将来的な機器の入れ替えを見据えるなら、共通規格「Matter」への対応状況も確認しておくと安心です。
アプリ名・アイコン・配色・ロゴ、さらに画面構成や機能の追加まで、変更可能な範囲を項目ごとに確認しましょう。「できる/できない」だけでなく、追加費用と開発期間もセットで押さえておくことが重要です。
入居者や利用者からの問い合わせに誰が対応するのかは、運用負荷を左右する大きなポイントです。自社ブランドで提供する場合、利用者から見た窓口は自社になるため、委託先のサポート範囲と自社が担う範囲を明確に線引きしておく必要があります。
一方で提供元によっては、入居者向けの一次対応まで自社スタッフが担うサービスもあります。自社の運用リソースが限られている場合は、どこまで任せられるのかを早い段階で確認しておくと安心です。
スマートホーム導入後のアフターサポートやメンテナンス、何をしてくれる?
初期費用・月額(ライセンス)費用・機器代・追加開発費など、費用の内訳と課金単位(1戸あたり/1アカウントあたりなど)を確認し、自社が利用者から回収する料金設計と突き合わせて採算を検証します。
センサーやアプリから得られるデータを誰が保有し、自社が分析に活用できるのかは、事業の将来性に関わる論点です。あわせて、契約終了時にデータを引き継げるか、利用者のアカウントがどうなるかも事前に確認しておきましょう。
ここまでOEMの進め方を解説してきましたが、目的が「物件の付加価値を高めたい」「入居者の満足度を上げたい」であれば、必ずしもOEMである必要はありません。既存のスマートホームサービスをそのまま導入するほうが、コストも期間も抑えられるケースは多くあります。
一方で、複数物件にシリーズ展開したい、サービス自体を収益源にしたい、既存の自社アプリと統合したいといった狙いがある場合は、OEMや機能組み込みの検討価値が高まります。まずは既存サービスの提供内容を把握したうえで、自社ブランド化の必要性を判断するのが現実的な進め方です。
他社が実際にどのようにスマートホーム化を実現しているのかは、導入事例からも確認できます。
スマートホームのOEMには、機器の調達、アプリ・プラットフォームの自社ブランド化、既存システムへの機能組み込みという3つのパターンがあります。いずれも開発コストと期間を抑えながら自社ブランドのサービスを立ち上げられる点が大きな利点です。
一方で、カスタマイズできる範囲や障害時の対応、法規制への対応、データの取り扱いなど、契約前に詰めるべき論点は少なくありません。「何を自社ブランドにしたいのか」という目的を先に固めたうえで、各社の提供範囲を具体的に比較することが、失敗しない進め方といえます。
当メディアでは、OEMのほかにもスマートホームサービスの導入検討に役立つ基礎知識をまとめています。物件へのスマートホーム導入や自社サービス化を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
IoT が当たり前となった現在、鍵となるのは施設ごとの運営課題に適したサービス選定です。
住宅・ホテル・オフィス、スマートホームの導入が増えてきたこの施設ごとに異なる課題を解決する3社をピックアップし、導入効果をひと目で比較できるよう整理しました。

1アプリ完結のプラットフォーム型IoT。照明・鍵・空調などの機能を物件グレードに合わせて追加・削除でき、入居後のニーズ変化にも柔軟に対応。
実際に周辺相場より月額賃料が1室3,000円アップ※1した例もあり、オーナー収益と入居者満足の両方を高めます。

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